Menu

自然に関する国内外の動向

世界経済フォーラムによれば、世界のGDPの半分以上に相当する約44兆ドルが自然に依存しています。自然の喪失と生態系の崩壊はビジネスに重大なリスクをもたらすため、近年は「ネイチャーポジティブ(自然を回復軌道に乗せるために、生物多様性の損失を止め、反転させること)」を目指す国際的な動きが活発化しています。ここでは、生物多様性に関する世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)と、企業の自然関連の開示フレームワークであるTNFDの動向について紹介します。

GBF

「昆明・モントリオール生物多様性枠組(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework:GBF)」 は2022年12月カナダ・モントリオールにて開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)で採択された、生物多様性に関する新たな世界目標です。GBFでは2050年までに実現するビジョン(将来像)、ビジョンを実現させるために定めた2050年までの4つのゴール、2030年までのミッションが示されました。また、2030年ミッションに向けた23のアクション(行動目標)が設定されています。2050年ビジョン、2050年ゴール、2030年ミッション、23の行動目標の概要を以下に示します。

2050年ビジョン
「自然と共生する世界」
(2020年までの生物多様性に関する世界目標である愛知目標から引き継いだ内容)
2050年ゴール
2050年ビジョンをより具体化させるための到達点のこと。保全、持続可能な利用、利益配分、実施のための資金・手法という4つの視点で具体化し、取組によりどのような世界を目指すのかが示されている。
<4つのゴールの概要>
  • すべての生態系を守り、取り戻す
  • 自然と一緒に繁栄する
  • 自然の恵みを公平に分け合う
  • 事業として取組、協力して目標を達成する
2030年ミッション
「生物多様性を保全し、持続可能に利用し、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を確保しつつ、必要な実施手段を提供することにより、生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せるための緊急の行動をとる」ことにより、「2020年を基準に2030年までに生物多様性の損失を反転させ、2050年までに完全な回復を実現する」、すなわち2030年までに「ネイチャーポジティブ」を実現する。
2030年ターゲット
ネイチャーポジティブの実現に向けた2030年までの行動目標。
<主なターゲットの概要>
  • ターゲット3:
    2030年までに陸域と海域の少なくとも30%以上を保護/保全(30by30目標)
  • ターゲット6:
    2030年までに侵略的外来種の導入率・定着率を半減
  • ターゲット8:
    自然を活用した解決策等を通じた気候変動の生物多様性への影響の最小化とそのレジリエンスの増強
  • ターゲット15:
    ビジネスにおける生物多様性への依存・インパクト、リスク・機会の分析や評価・情報公開の促進

なかでも大切になる考え方が「ネイチャーポジティブ」です。かつての社会・経済では、自然へのネガティブなインパクトを限りなくゼロに近づけることを目指していました。一方で、「自然と共生する社会」の実現に向けてはそれだけでは足りず、自然の損失を「反転させる」、すなわち2020年より多くの自然を確保することを目指すのがネイチャーポジティブのコンセプトです。世界目標のミッションとして掲げられたことから、各国政府や企業、組織がネイチャーポジティブ実現に向け取組を強化しています。日本でも2023年に生物多様性国家戦略が閣議決定され、2030年までの中長期的な取組・施策の方向性が示されました。

図
生物多様性プラン
出典:

TNFD

自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:TNFD)は、国際的に自然の劣化への危機感やその回復の重要性の認識が高まっていることを背景に、企業における自然関連のリスク管理・開示枠組みを構築するため2021年に発足したグローバルなタスクフォースです。組織が変化する自然関連リスクを報告し、それに基づいて行動するためのリスク管理と開示の枠組みを開発および提供し、グローバルなお金の流れを自然にネガティブな状態からポジティブな状態へとシフトする支援を目的としています。日本でも多くの企業がこの枠組みを活用しており、自社の事業が自然資本に対していかに依存し影響を与えているかを評価し、それに起因するリスクと機会の開示を進めています。

TNFDは2023年9月に、企業が自然関連のリスク・機会やその要因となる自然への依存・インパクトを特定し、管理・開示するためのフレームワーク(自然関連財務情報開示タスクフォースの提言)の正式版を発表しました。TNFDの開示フレームワークは自然関連開示のための基本概念、一般要件、開示提言の3つで構成されています。

①基本概念

自然とビジネスの関係性を理解するための基礎として、TNFDは漠然と捉えられていた「自然」を陸・海・淡水・大気の4つの領域で構成されるものと定義しました。人間を含む社会は自然の4つの領域すべてに包含されます。自然の各領域と人間を含む社会は相互に作用しており、企業活動などを通して様々な場面で自然へ依存し、インパクトを与えている、というのがTNFDの基本的な考えです。また、TNFDでは自然が生み出す生態系サービスへの依存や自然に対するインパクトに起因して、自然関連のリスク・機会が生じると整理されています。こうした自然関連の依存・インパクト、リスク・機会を総称して自然関連課題といいます。

②一般要件

一般要件は「開示の際に採用したマテリアリティの明示」、「開示のスコープ」、「自然関連課題がある地域」、「他のサステナビリティ関連の開示との統合」、「対象期間」、「関係する先住民族、地域社会といったステークホルダーとのエンゲージメント」の6つが示されています。開示の一貫性を担保しつつ、企業(開示する側)と投資家(読む側)の認識を合わせることが一般要件の目的です。

③開示提言

開示提言はTNFDフレームワークの中核で、気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD)を踏襲した4つの柱とより細かな14項目の開示提言で構成されている「提言本体」と、組織が任意で利用可能な「追加ガイダンス」の大きく2つに分かれています。
TNFDにおける4つの柱は「ガバナンス」、「戦略」、「リスクとインパクトの管理」、「測定指標とターゲット」で、それぞれの柱に3~4個の開示提言があります。その提言に基づいて開示をすることで、TCFDや国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board:ISSB)、企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive:CSRD)など他のサステナビリティ開示との整合性を担保しています。
追加ガイダンスは、組織が自然関連の開示を始める際の「開始ガイダンス」や、組織の自然との接点、自然への依存・インパクト、リスク・機会など自然関連課題を評価するための統合的なアプローチのガイダンスである「LEAPアプローチガイダンス」、特に自然と関連が深いセクター向けの「セクター別ガイダンス」など、広く補足的なガイダンスを公開しています。以下ではLEAPアプローチの概要を解説します。

<LEAPアプローチの概要>

「LEAPアプローチ」とは、「Locate:発見」、「Evaluate:診断」、「Assess:評価」、「Prepare:準備」の頭文字をとった、自然関連の依存・インパクト、リスク・機会を統合的に評価するためのアプローチです。任意のアプローチではありますが、自然関連課題の開示に際して効果的な評価・準備が可能になります。LEAPの各ステップの概要は以下のとおりです。

  1. 1. Locate: 自然との接点の発見
    Locateは事業・バリューチェーンのどの部分の自然関連課題がマテリアルとなりそうかのスクリーニングや、要注意地域の特定などを行うフェーズです。TNFDの文脈における要注意地域とは、組織の直接操業および上流・下流のバリューチェーンにおける資産や活動がある地域のうち、生態学的にセンシティブ(要注意)と考えられるエリアを指します。 このほか、自社の事業やバリューチェーンが接点を持つ生態系(バイオーム)も確認します。
  2. 2. Evaluate: 依存・インパクトの診断
    Evaluateは事業が自然にどの程度依存しているか、あるいはどの程度インパクトを与えているかを特定・評価・測定するフェーズです。依存・インパクトの程度や規模、マテリアルだと考えられるインパクトは何か、などを評価します。
    Locateにおける要注意地域の検討結果なども含め、場所の情報・コンテクストと紐づけて、場所別にマテリアルな依存・インパクトを整理することが重要になります。
  3. 3. Assess: リスクと機会の評価
    Assessは依存・インパクトを踏まえてリスク・機会を特定し、優先順位を付けるフェーズです。特定した各リスク・機会は、発生しうる時間軸や影響度、発生可能性などを踏まえつつ重要性・優先度を評価します。
    自然関連のリスク・機会は、Locateでの要注意地域の検討結果やEvaluateで確認した依存・インパクトを踏まえつつ、関連する外部環境の情報も踏まえて検討することが有効です。
  4. 4. Prepare: 対応・報告の準備
    Prepareは、どのような対応戦略やターゲットを設定するか、何を開示するかを検討するフェーズです。リスクを低減・回避するための対応策や機会を実現するための戦略の検討など、目標を定めた戦略的な対応や開示の準備をします。
    なお、取組を検討する場合はSBTs for Natureのミティゲーションヒエラルキーに関するフレームワーク”AR3T”を踏まえ、自然へのマイナスのインパクトを回避する行動から優先して取り組むべきとされています。

GBFのターゲット15や日本の生物多様性国家戦略でも企業の情報開示に関する目標が掲げられており、気候変動と同様、自然関連の情報開示に対する要請が高まっています。

図
TNFD開示フレームワーク
出典:
ページトップに戻る