ビジネスによる自然へのインパクト事例
社会や経済は自然資本に依存している反面、ビジネスにより自然資本が毀損されることがあります。ここでは、事業活動が及ぼした自然へのインパクト事例を、自然を変化させる5つの要因(陸/淡水/海洋利用の変化、資源使用、気候変動、汚染、侵略的外来種の導入)別に紹介します。
陸/淡水/海洋利用の変化
ビジネスによる土地改変(陸域だけでなく淡水域や海洋域も含む)も自然にインパクトを与えます。西アフリカでは、カカオ栽培等を要因として熱帯雨林の消失が続いており、コートジボワールではかつて国土の25%程度あった熱帯雨林が4%程度まで減少しています。熱帯雨林は生物多様性が高いエリアであり、熱帯雨林の喪失は生物多様性や生態系に与えるインパクトが極めて大きいとされています。
資源使用
水の過剰利用によるインパクト事例として、アラル海の灌漑用水が知られています。世界で4番目に広い湖であったアラル海は、周辺国が綿花等の農業生産のために灌漑を拡大し続けたため、2007年には元の大きさの10%程度に縮小して、ほぼ消滅しました。結果的に塩分濃度が高くなり、魚類は死滅し、農業生産も行き詰まるといった負の連鎖を引き起こしました。
気候変動
温室効果ガス(GHG)の排出による気候変動・気温上昇は、自然資本を劣化させる要因のひとつです。GHGはビジネスを通して世界各地で大量に放出されており、なかでも化石燃料の燃焼によって2024年には年間約370億トンの二酸化炭素が排出されていると推計されています。GHGにより地球の平均気温は上昇しており、 2024年には1850年~1900年の平均と比較して約1.55℃の気温上昇が確認されています
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。ロシアでは気温上昇に伴う永久凍土の融解により建物やパイプラインの安定性が損なわれ、これに起因する燃料油の流出事故も発生しています。この事故により河川が広範囲にわたり汚染されました。
気候変動による生物多様性への影響も懸念されています。気温の上昇や降水量が変化すると、植生やそこに生息する生物の分布が変化し、生態系のバランスが崩れることが指摘されています。2050年までに、気候変動が生物多様性喪失の最大要因となる可能性があるといわれています。
- ※ IPCC AR6では1850年~1900年を基準に2011年~2020年の平均気温の上昇量として1.09℃が示されています。
汚染
日本の内湾では、栄養汚染である「富栄養化」が長年にわたり問題になっています。栄養素は生命の維持に必須ですが、過剰に供給されると生態系に悪影響を及ぼします。日本でも、工業排水や生活排水が引き起こした栄養汚染により赤潮やアオコ(いずれも植物プランクトンの異常増殖)が発生し、淡水・海洋生態系への影響、漁業資源の減少、地域住民の飲料水汚染や健康被害などが問題になりました。現在は富栄養化対策が行われたことで、水質は改善傾向にあります。
侵略的外来種の導入
侵略的外来種によるインパクト事例では、バラスト水によるものが挙げられます。バラスト水とは、荷物を積載していない船を安定させるために積み込む海水のことです。荷物を下ろした際に積み込まれ、到着した港で荷を積むときに捨てられます。国際海事機関(International Maritime Organization:IMO)によると、世界で年間約百億トンのバラスト水が国際移動していますが、バラスト水に含まれている生物が本来の生息地でない環境中に拡散することにより、世界各地で移入生物(外来種)の貝や魚、海藻類が繁殖して問題になっています。日本人になじみ深いワカメもバラスト水を介して越境移動しており、世界各地で繁茂しています。海外ではワカメを食べる習慣がないためワカメは次々と増殖しており、現地の水産業に甚大な影響をもたらしています。その影響の大きさから、ワカメは侵略的外来種ワースト100に数えられています。現在はバラスト水管理条約などの発効もあり、世界的にバラスト水の管理が進められています。
外来種がもたらす経済損失は、全世界で年間約5兆円に達するとされており、今や気候変動と比肩するリスクとなっています。
なお、 IPBES の報告書によると、自然の状態を変化させる直接的な要因として最も影響があるのは土地や海域利用の変化で、人為的な自然の変化のうち約30%は土地や海域利用の変化に起因するという評価結果が示されています。次いで資源等の直接的な採取(資源利用、約23%)、気候変動(約14%)、侵略的外来種(約11%)が挙げられています。