自然関連の組織やイニシアチブ
気候の分野だけでなく、自然の分野でも様々な主体が様々な活動をしています。このページでは、自然関連の組織やイニシアチブ、会議体を紹介し、それぞれどのようなプレイヤーがどのような場所で何を決定しているのかを解説します。
UNEP
国連環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP)は1972年6月ストックホルムで「かけがえのない地球」をキャッチフレーズに開催された国連人間環境会議の提案を受け、同会議で採択された「人間環境宣言」及び「環境国際行動計画」を実施に移すための機関として、同年の国連総会決議に基づき設立されました。国際連合総会の補助機関の一つとして環境に関する諸活動の調整を行うとともに、あらたな問題に対し、国際協力を推進することを目的としており、人の生命と福祉のために環境の質を現在から将来にわたり保護し拡大するための国際協力を促進すべく、7つのサブプログラム(気候変動、災害・紛争、生態系管理、環境ガバナンス、化学物質・廃棄物、資源効率性、環境レビュー)を中心に活動を行っています。このほか多くの国際環境条約の交渉を主導しており、モントリオール議定書の事務局だけでなく、ワシントン条約、ボン条約、バーゼル条約、生物多様性条約などの条約管理も行っています。
UNEPの下部組織のひとつに、国連環境計画 世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)があります。 UNEP-WCMCは種の保存と持続可能な利用、環境システムに関する情報を集約・管理し、国際機関から多国籍企業に至るまでの広範囲にわたる組織へ提供しています。
IPBES
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services:IPBES)は、「生物多様性版のIPCC」とも呼ばれる、生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間組織です。「科学的評価」、「能力養成」、「知見生成」、「政策立案支援」を活動の柱としています。2012年4月に設立され、2025年3月現在、加盟国は148カ国にも及びます。
IPBESの活動は加盟国の要望を踏まえて計画・実施されます。代表的な活動が生物多様性と生態系サービスに関する科学的評価をまとめた報告書の作成で、テーマは数年ごとに異なります。報告書から特に政策に関連性の高い情報を要約した政策決定者向け要約(Summary for Policymakers : SPM)は、IPBES総会の審議で全加盟国の合意を得た後に発表され、政策立案への科学的な知見の組み込みに寄与しています。
COP
締約国会議(Conference of the Parties:COP)は条約の実施を推進するために、締約国の目指すべき政策指針や作業計画を決定し、実施状況を確認する定期的な会合です。日本語では「締約国会議」といいます。なかでも生物多様性条約に関するCOPは「CBD-COP(Convention on Biological Diversity COP)」と称され、概ね2年に1回開催されています。
CBD-COPは日本で開催されたこともあります。2010年に愛知県名古屋市で開催されたCOP10では、2010年から2020年までの国際目標である「愛知目標」が採択された歴史的に重要な会合です。現在は愛知目標に続く新しい国際目標を含む「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」が採択され、GBFが描く世界の実現に向け各国の主体が取組を強化しています。直近のCBD-COPは2024年にコロンビア・カリで開催されており、次回はアルメニアのエレバンで開催される予定です。
IFRS/ISSB
国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards:IFRS)は、ロンドンを拠点とする民間団体である国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board)によって設定される会計基準のことです。1980年代以降、企業のグローバル化が進むなかで、会計基準の統一を目指すという目的から生まれました。2005年にEU域内の上場企業で適用が義務化されたことで利用が拡大しました。現在、IFRSは、約120の国と地域で採用されています。米国や日本のように、先進国のなかには完全にIFRS適用が行われていない国もありますが、世界全体としてはIFRSの適用拡大が進んでいます。
IFRSが求める情報は、企業の財務状況を示すものですが、近年サステナビリティ情報との統合にも取組はじめています。IFRSが2021年に設置した国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board:ISSB)を通じ、企業がESG(環境・社会・ガバナンス)情報を統合する際のフレームワークを提供し、持続可能な経営を支える重要な役割を担っています。TNFDの開示基準と整合を図る動きも進んでいます。
SBTN
SBTN(The Science Based Targets Network)は、企業向けの自然に関する科学的根拠に基づく目標設定の枠組みである「Science Based Targets for Nature(SBTs for Nature)」を開発する国際非営利団体です。既に気候変動分野ではIPCCなどの科学的知見に基づいて1.5℃の気温上昇経路に整合した温室効果ガス排出削減目標を設定する「Science Based Target:SBT」が主流化していますが、SBTs for Natureは新たに「自然」を対象とした目標設定の枠組みとなっています。
TNFD
でも「目標設定」の項目でSBTs for Natureの活用が推奨されています。
SBTNは淡水域と陸域に対する目標設定ガイダンスを公開しており、海洋域についてもドラフト版が公開されています。ガイダンスに基づいて設定された自然関連の目標はSBTNによって検証され、検証に合格した目標はSBTNのホームページで公開されます。
NPI
NPI(Nature Positive Initiative)は「
ネイチャーポジティブ
」という言葉の定義、整合性、使用に関する調整を推進し、成果をもたらすためのより広範で長期的な取組を支援することを目的としたイニシアチブです。IUCNやWWF、TNFDなどをはじめとする世界最大規模の自然保護団体、研究機関、企業、金融連合27団体が集まり、2024年9月に発足しました。NPIの優先課題は、すべての人がその影響と貢献を適切に測定し、報告が可能となるような共通の定義や測定基準、ツールと実践の展開を支援することとされています。
ネイチャーポジティブとは「2020年を基準に2030年までに生物多様性の損失を反転させ、2050年までに完全な回復を実現する」ことを意味します。ネイチャーポジティブの定義は世界共通認識となっている一方、自然の状態の損失を測る指標は多岐にわたっており、「ネイチャーポジティブが実現できているか」を評価する統一的な指標はないのが現状です。そこでNPIは2024年10月に自然の現状を測定するための統一的な指標を提案しました。 現在提案されているのは陸域の自然の状態を測定するための9つの指標ですが、今後は淡水域や海域についても同様の指標が提案される見込みです。
TNC
TNC(The Nature Conservancy)は世界的な自然保護団体です。1951年に設立され、生物の生息地の確保や希少野生生物・生態系の保全活動などを行っています。世界各地で広範囲にわたって活動しており、自然保護活動を実施している国と地域は81、展開する海洋保全プロジェクトは100以上にものぼります。NPIの発足メンバーでもあります。
CI
CI(Conservation International)は自然保護を通じて持続可能な社会を実現することを目的として創設された国際環境NGOです。1987年に設立され、1990年には日本法人も設立されています。保全事業の形成・実施・支援や気候変動、海洋保全に関わる政策提言などを実施するほか、自然と共生する生産・消費や資金循環を生み出す、ネイチャーポジティブな経済の仕組みづくりを進めています。CIもNPIの発足メンバーの1つです。
IUCN
国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature and Natural Resources:IUCN)は、1948年に設立された世界最大規模の生物多様性保全を目的とした専門家ネットワークです。IUCNは、気候行動委員会、生態系管理委員会、教育・コミュニケーション委員会、環境・経済・社会政策委員会、種の保存委員会、環境法委員会、保護地域委員会の7つの専門委員会を有しています。2025年現在、政府機関、NGO、先住民地域共同体などから15,000人を超える専門家が参加しており、絶滅危惧種のリストである「IUCNレッドリスト」の作成や、各種指針・ガイドライン・評価レポートなどの科学的成果物の発行に取り組んでいます。また、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)とラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)にも深く関係しており、締約国の意思決定に資する科学的な情報の提供などを行いました。このほか、「自然を基盤とした解決策(Nature-based Solutions:NbS)」など、科学的な知見を政策に橋渡しする役割もあります。
なお、丸紅グループの自然関連課題の評価でも、IUCNが公開しているバイオームのデータや保護地域の管理カテゴリーを加味した分析を実施しています。詳細は丸紅グループのTNFD提言に基づく情報開示や
Marubeni’s Growth
をご参照ください。
IUCNは4年ごとに「世界自然保護会議(World Conservation Congress)」を開催しています。生物多様性保全に関する決議の採択やワークショップの実施など、国際的な合意形成の場になっています。
WWF
世界自然保護基金(World Wide Fund for Nature: WWF)は100カ国以上で活動している環境保全団体で、1961年にスイスで設立されました。人と自然が調和して生きられる未来をめざして、サステナブルな社会の実現を推し進めています。急激に失われつつある生物多様性の豊かさの回復と、地球温暖化防止のための脱炭素社会の実現に向けて、希少な野生生物の保全や、持続可能な生産と消費の促進を行なっています。