自然の恵み(NCP)
健全な生態系がもたらす様々な”財”や”サービス”、いわゆる自然の恵みを「生態系サービス」や「NCP」といい、社会・経済活動に欠かせない要素になっています。ここでは自然がもたらす人類への貢献について解説します。
「NCP」とは
「NCP」とは「Nature’s Contributions to People」の略称で、「自然がもたらすもの」や「自然の寄与」と訳されます。「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services:IPBES)」により提唱された概念で、人類が自然から得ているあらゆる便益、すなわち「自然の恵み」といえます。似た概念として「生態系サービス」が挙げられますが、NCPはより多様な文化や価値観を織り込んだ、より包括的な概念とされています。なお、環境省が公開した「生物多様性及び生態系サービスの総合評価2021(JBO3:Japan Biodiversity Outlook 3)」では、生態系サービスとNCPは読み替え可能な概念として扱われています。なお、企業の自然関連の開示フレームワークであるTNFDの枠組みでは、NCPではなく生態系サービスが用語として使われています。
NCPは大きく3つに分けられます。
- ① 自然の物的寄与:Material Contributions(Material NCP)
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自然の物的寄与はいわゆる「供給サービス」のことで、自然による淡水資源やバイオマス(食料や木材など)の供給がこれにあたります。IPBESの報告書は、「社会や事業を営むために必要な、人間の物理的な存在とインフラ(建造物、道路、発電といった基礎的な物理的、組織的な構造物や設備)の維持を支える、自然に由来する物質、物体や他の物的な要素」と説明しています。
多くが物理的に消費されるもので、過剰な利用により枯渇する恐れのあるNCPといえます。 - ② 自然の調節的寄与:Regulating Contributions(Regulating NCP)
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自然の調節的寄与はいわゆる「調整・維持サービス」のことで、自然による大気質や水質、土壌質、気候の調整・維持、洪水や土壌浸食などの災害緩和機能がこれにあたります。たとえば森林があることで水が浄化され、洪水が抑制され、山間の土壌が保持されますが、こうした便益が調節的寄与です。
IPBESの報告書は、「人々が体験する環境の状態を変化させ、物的寄与と非物的寄与の生成を維持および(または)調節する、生物と生態系の機能的、構造的な側面」と説明しています。 - ③ 自然の非物的寄与:Non-material Contributions(Non-material NCP)
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自然の非物的寄与はいわゆる「文化的サービス」のことです。自然による精神的な充足や美的な楽しみ、レクリエーションの場、地域固有の文化や信仰の場の提供など、無形の寄与がこれにあたります。たとえば自然が織りなす美しい景観は観光資源になるだけでなく、畏敬の念も込められた信仰の対象にもなり得ます。日本の象徴である富士山もある種の非物的寄与といえるでしょう。
IPBESの報告書は、「個人や人間集団が主観的または心理的に捉える生活の質への自然の寄与」と説明しています。
人類による社会・経済活動は自然資本による恵みのうえに成り立っていますが、自然の恵みの享受と社会・経済的な発展はしばしばトレードオフの関係にあります。IPBESの報告書によると、NCPのほとんどは完全には代替できず、まったく代替が効かないものもあるとされています。同報告書はマングローブを例に解説しており、高潮は人工的な堤防・防潮堤でもマングローブ林でも軽減できる一方、人工インフラは建設や維持管理に膨大な費用がかかること、また、人工インフラは魚介類の生息地や娯楽(レクリエーション)の場の提供といった相乗性(シナジー)が得られにくいと指摘されており、「代替の人工物からは、自然から得られるものと同等の幅広い便益が得られないことが多い」と結ばれています。「ビジネス・経済と自然の関係」 も併せてご参照下さい。
また、生態系サービスとNCPは人権とも密接な関係にあります。近年は事業地やその周辺に対する自然への負のインパクトにより間接的に影響を受け得るあらゆるステークホルダーの人権に対し、管理・モニタリングする体制の整備やエンゲージメントが求められており、TNFDでも「先住民族・地域社会・影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメント」に対する説明が要求されています。ビジネスによる自然の劣化は、企業の人権リスクという形で顕在化する可能性もあるのです。
- 出典:
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- 環境省 生物多様性ホームページ 「自然のめぐみ」より丸紅が改変